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魂の記録:2016.4.16 熊本地震 ― 連続する震度7と、“想定”を超える直下地震の脅威

安堵を打ち砕いた、二度目の絶望

2016年4月14日午後9時26分、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード6.5の地震が発生し、益城町で震度7を観測した。 多くの住民が家屋の被害や余震の恐怖に怯えながらも、「本震は過ぎ去った」と信じ、避難所や車中で不安な夜を過ごしていた。しかし、そのわずか28時間後の4月16日午前1時25分、事態は悪夢へと転じる。 M7.3という、先の地震をはるかに上回るエネルギーを持つ「本震」が、再び熊本を襲ったのだ。 益城町と西原村で再び震度7を観測し、観測史上初めて同一地域で二度の震度7に見舞われるという異常事態となった。

この連続した巨大地震は、甚大な被害をもたらした。最初の地震で損傷していた家屋が本震で完全に倒壊するケースが相次ぎ、熊本のシンボルである熊本城も、その美しい石垣や櫓(やぐら)を無残に崩落させた。 さらに、阿蘇地方では大規模な土砂崩れが発生し、阿蘇大橋が崩落。 この一連の地震による死者は、直接死50人に加え、避難生活の負担などが原因の「災害関連死」が221人にのぼり、その多くが高齢者であった。 住家被害は約20万棟に達し、改めて直下型地震の恐ろしさを日本全土に突きつける結果となった。

コレクト

分析:直下地震の牙と、「キラーパルス」という共振現象

豆知識ですが、熊本地震の被害が拡大した背景には、都市の直下で発生した「直下型地震」特有の現象があります。 震源が浅いため、地表に極めて強い揺れが直接伝わったのです。特に、周期1~2秒の強い揺れは「キラーパルス」と呼ばれ、木造家屋の固有周期と共振しやすく、建物を破壊するほどのエネルギーを持ちます。 阪神・淡路大震災でも観測されたこの揺れが、益城町などで甚大な家屋倒壊を引き起こした一因と考えられています。

さらに、この地震は「一度耐えれば大丈夫」という従来の耐震思想に大きな課題を突きつけました。計算上、1981年に導入された「新耐震基準」を満たす木造住宅でも、倒壊事例が報告されたのです。 これは、一度目の「前震」で接合部などがダメージを受け、耐力が低下したところに、二度目の「本震」という想定を超える力が加わったためです。震度7クラスの揺れが繰り返し襲ってくる可能性を、建築基準は想定していませんでした。 また、避難生活の長期化は「災害関連死」という深刻な問題を引き起こしました。特に車中泊によるエコノミークラス症候群での死亡例は、避難所の環境だけでなく、避難行動そのものの在り方を問い直すきっかけとなったのです。

「前震」という言葉の罠と、我が家が凶器になる恐怖

「まさか、もっと大きいのが来るなんて」。これは、被災した多くの人々が口にした言葉です。4月14日の地震の後、気象庁は「今後1週間ほどは同程度の地震に注意」と呼びかけました。しかし、多くの人々はそれを「余震への注意喚起」と受け止め、一度目の揺れで無事だった自宅へ戻ったり、片付けを始めたりしていました。結果として、16日の本震で倒壊した家屋の下敷きになり命を落とすという悲劇が起きました。

この経験は、私たちに「最初の揺れが最大とは限らない」という厳しい教訓を突きつけました。特に、日奈久断層帯と布田川断層帯という二つの活断層が連動して活動した今回の地震は、地震活動の複雑さを物語っています。 「前震」という言葉は、後から振り返って付けられる学術的な名称であり、その時点では何が起こるか誰にも予測できないのです。安全なはずの我が家が、一転して命を奪う凶器になり得る。その恐怖と向き合い、最初の揺れで家屋に少しでも異変を感じたら、「安全な場所へ避難する」という判断を徹底することの重要性が、改めて浮き彫りになりました。

一方で、この絶望的な状況下でも、地域の絆が光を放ちました。倒壊した家屋から隣人を助け出す住民たちの姿、避難所で食料や毛布を分け合う姿は、マニュアルにはない「共助」の力の尊さを示していました。行政機能が麻痺するほどの災害においては、最終的に頼りになるのは地域コミュニティの力なのです。

ちさまる

ちさまるの想い

一度目の大きな揺れの後、「もうこれで終わりだ」って、誰もがそう思いたかったはずだよね。自分の家が一番安全だって信じたいもんね。それなのに、もっと大きな揺れが来て、信じていた場所が一番危ない場所になっちゃうなんて…。どれだけ怖くて、悲しかっただろうって思うと、心がきゅーってなるんだ。でもね、そんな中でも、近所の人たちが声を掛け合って、瓦礫の中から助け出したり、お互いの不安を分かち合ったりしていたんだよね。怖い時、辛い時、「大丈夫?」の一言が、どれだけ心を温めてくれるか。その温かさこそが、未来に進むための、一番の光になるんだって、ちさまるは思うんだ。

「耐震」から「制震・免震」へ、そして災害関連死ゼロを目指して

熊本地震の教訓を、私たちは決して無駄にしてはなりません。まず、住宅の安全基準に対する考え方を根本から見直す必要があります。一度の揺れに耐える「耐震」だけでなく、揺れを吸収する「制震」や、揺れを伝えない「免震」といった技術を積極的に導入し、繰り返し襲ってくる巨大地震にも耐えうる家づくりを社会全体のスタンダードにしていくべきです。 既に住宅性能表示制度では、建築基準法の1.5倍の耐力を持つ「耐震等級3」の住宅が、熊本地震においてほとんど被害を受けなかったことが報告されています。 自分の命を守るための投資として、住宅の耐震化を真剣に考える時が来ています。

そして、災害関連死を一人でも減らすための取り組みが急務です。避難所の環境改善はもちろんのこと、車中泊などの多様な避難形態を想定し、エコノミークラス症候群の予防知識の普及や、巡回による健康相談体制を早期に確立する必要があります。 特に高齢者や持病を持つ方々への配慮は不可欠です。災害は、建物を壊すだけでなく、人の心と体を静かに蝕んでいきます。その「静かなる脅威」から命を守る社会的なセーフティネットの構築こそが、熊本の魂の記録に報いる道なのです。

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